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老友新聞
ルーペ

コラム

2020年12月30日

「誘われる人」になるには見えない努力が必要です

「まことに失礼でございますが、どちら様でございましたか……」
「お母様、嫁の理恵ですよ」
「あ、理恵さん…」
いつものように、凛とした品の良さは変わらない。

施設にゆく度に「どなた様ですか」で始まる伯母との会話は、すでに結婚式の様子。教会の賛美歌、上海で暮らした日々……。伯母のかすかな記憶の中に、もはや浮かんでこない。
そうして何年か過ぎたある日。朝5時、理恵さんの家の電話が鳴った。覚悟はしていたものの、とりあえず施設へ急いだ。
医師からの説明を聞きながら
「ああ、長い日々であった。もうここに来ることは無い」
と思う。
看護師さんが静かに告げた
「眠るがごとく、おだやかに逝かれました」

あわただしく日々がめぐって、親戚からは次々と電話がかかってくる。教会のミサには、長い間逢っていなかった縁者、友人達が久しぶりにみえて祈ってくれた。
「眠るがごとく、おだやかに逝かれました」
思いやりの優しさだ。
「苦しみぬいて逝かれました」
なんて言われたら、一生忘れられないだろう。
真実などどうであれ、おだやかに旅立ったと告げられて、残された者たちは何かしら気持ちがあかるくなった。
    ◇
生前友人の多かった伯母は、おしゃれだった。真っ白なヘアーは誰からもほめられていたし、伯母に似合っていた。
留守宅に荷物を届けたりすると、理恵さんの小さなメモがテーブルの上に置いてあった。
「コンサートに行きます。4時頃帰ります」
「署名運動に行きます」
など。
誘われると伯母はおしゃれをして、いそいそとボランティアに協力した。そんな88歳だった。
    ◇
高齢のひきこもりはつらい。約61万人もいると言われる高齢者のひきこもりは、若者のひきこもりよりプライドが高い人達のため、誘う方も気を使う。
会が終わったあと、誰となく「お茶しようか」とか「誰誘う?」となった時、その人の生き方がわかる。

Aさん「ええわ、あの人、えー人や」
Bさん「あの人も面白い!」
Cさん「あかん。あの人暗い。やめとこ」
Dさん「あの人いや。一緒かなん」
Eさん「あの人、ごはん口の中にいっぱい頬張らはるし、しゃべらはったらごはんがとぶ。あの人はあかん」

人物批評はきりがなく、雑談の中から見事に平均的評価が出来上がっている。
お茶の一つくらい、一緒に行って楽しい人と飲みたいものだ。
誘われる人になるためには、見えない努力が必要だ。

それは公園デビューから始まっている。初めての赤ちゃんを抱いて行くと、公園には若いお母さん達がいる。更に学校PTAデビューでも、子供の友人達の親。「私は誰ともつきあいません」では通らない。
施設でも、いつも一人でいる人は、誰も近づかない。テレビの話題でも、同窓会の思い出でも、昔見た映画の話題でも、馴れることだ。
かといって、人の悪口は要注意。自分の終の棲家であることを忘れないで。
「あの人、良い人だったねー」
になろう。

(本稿は老友新聞本紙2019年6月号に掲載した当時のものです)

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市田 ひろみ
  • 服飾評論家

重役秘書としてのOLをスタートに女優、美容師などを経て、現在は服飾評論家、エッセイスト、日本和装師会会長を務める。

書家としても活躍。講演会で日本中を駆けめぐるかたわら、世界の民族衣装を求めて膨大なコレクションを持ち、日本各地で展覧会を催す。

テレビCMの〝お茶のおばさん〟としても親しまれACC全日本CMフェスティバル賞を受賞。二〇〇一年厚生労働大臣より着付技術において「卓越技能者表彰」を授章。

二〇〇八年七月、G8洞爺湖サミット配偶者プログラムでは詩書と源氏物語を語り、十二単の着付を披露する。

現在、京都市観光協会副会長を務める。

テレビ朝日「京都迷宮案内」で女将役、NHK「おしゃれ工房」などテレビ出演多数。

著書多数。講演活動で活躍。海外文化交流も一〇六都市におよぶ。

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