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医療と健康

2022年07月07日

高齢者に多い聴覚障害…その原因と改善方法

WHO(世界保健機関)は、世界的な高齢者人口の増加に伴い、聴覚障害に苦しむ人も増えており、2050年には9億人に達する可能性があると発表している。これは超高齢化社会が進む日本でも避けることはできない問題であり、とくに我々高齢者にとっては誰もがなりうる可能性がある身近な病気である。今回は高齢者に多い聴覚障害について取り上げ、原因と改善方法について詳しくお伝えする。

音を聴く耳の仕組み

ご存じの通り、聴覚とは外からの情報を得るための「五感」のうちのひとつであり、日常生活を送るうえで欠かせないものである。

まず「耳で音を聞く」ということはどのような仕組みになっているのかを説明しよう。図に、耳の内部の構造を示した。

まず、外からでも見ることができる「耳介」は、音を効率よく集めて外耳道へ送る役割を果たしている。音は空気中を伝わる波(振動)であり、その波をこの耳介で捉えるのだ。耳介は前方に向かって弧を描くような形をしており、そして顔の左右両側についていることにより、ただ音の波を捉えるだけではなく、音がどの方角から聞こえてくるのかも分かるようになっている。

外耳道に入ってきた音の波は「鼓膜」を震わせ、その振動は中耳の中の「耳小骨」に伝わる。この耳小骨は音の振動を増幅させ、小さな音でも聞き取りやすくしたり、逆に大きすぎる音を減衰させて過剰な振動を伝えないように調整する役割も持っている。

耳小骨の振動は、さらにその奥の内耳にある「蝸牛」に伝えられる。蝸牛はかたつむりの殻の形に似ていることからその名が付けられているもので渦巻き状の形をしている。蝸牛の内部はリンパ液で満たされており、さらに細かな産毛のような感覚毛があり、リンパ液を伝わった振動はこの感覚毛を揺らす。すると振動は電気信号へと変換されて、蝸牛に張り巡らされた聴神経によって脳へと伝えられるのだ。

まとめると、耳介で集められた音の波は鼓膜で振動に変わり、耳小骨で増幅されて、蝸牛で電気信号に変換され、聴神経を通って脳に伝えられるということだ。

 

 

聴覚障害~3つの発生原因

聴覚障害とは、この耳の構造のうち、どこかに障害が発生して機能が低下する事により発生するものであり、障害が発生する場所によって大きく3つに分けられる。

図の「伝音系」部分に障害が発生した場合は「伝音性難聴」といい、音の伝わり方が弱いために、小さな音が聞こえにくくなる。逆に大きな音であれば問題なく聞き取れる。「感音系」部分に障害が発生した場合は「感音性難聴」といい、音の伝わり方が弱くなるうえに音の質・響き方が変化してしまう。そのため大きな音であってもはっきりと聞き取りにくくなってしまう。そして伝音系と感音系の両方に障害が発生する「混合性難聴」もあり、両方の難聴の特性を併せ持つ。

聴覚障害は、生まれた時から耳が聞こえない先天性難聴、あるいは怪我や病気が原因で耳が聞こえなくなる中途失聴などもあるが、とくにこれといった原因がなくても、個人差はあるが30代くらいから徐々に能力が衰え始める。

65歳を過ぎた頃から耳の聞こえにくさを実感する人が多くなる、いわゆる老化現象である。本誌読者の中にも、若い頃よりもテレビのボリュームを大きくすることが多くなったとか、他人から話しかけられたときにうまく聞き取れず、聞き返すことが多くなったと実感される人も少なくないだろう。この老化現象による難聴「高齢者難聴」は、ある時急に耳が聞こえなくなるわけではなく、ゆっくりと進行するために、本人も気づかない、あるいは聴覚障害であると認めたがらないことも多い。

治療は薬物や外科的治療
補聴器は自分にあったものを

難聴の治療方には大きく分けて薬物療法、外科的治療、その他の治療法の3つある。
まず薬物療法について。おもに血流をよくすることで難聴を改善する目的で薬が用いられる。

血流改善薬で内耳の血流を良くしたり、炎症が原因となっている場合にはステロイド剤や抗菌薬を用いることもある。薬物療法は突発性難聴やメニエール病、中耳炎などの病気による難聴の改善が期待できる一方で、加齢による老人性難聴の治療は難しい。

外科的治療については、たとえば外耳道に腫瘍が出来たために聴力障害が生じている場合、それを取り除くための切除術が行われる。また、蝸牛に障害が発生して機能が衰えている場合には、音を電気信号へ変える人工内耳を埋め込むこともある。

その他の治療法は、補聴器を使う方法である。補聴器は単に音を大きくするためだけの装置ではなく、音質や音の響き方を調整する機能も持っている。そのため補聴器を選ぶ際には、医師の診断を受けて、自分自身の聞こえ方に合った補聴器の選択、調整をする必要がある。

形式も、耳の穴の中に入れるものや耳に掛けるタイプ、ポケットの中に入れて使用するタイプなどがあるのでご自身の生活スタイルや好みによって選ぶことができる。

また聴力障害がある場合には、一緒に暮らす家族や周囲の人の理解・サポートも重要になる。筆談をしたり、しゃべる時には単に大きな声を出すだけではなく、相手の方向を向いて、ゆっくり、はっきりとしゃべるようにする。難聴の人は、音が聞き取りにくくても、相手の表情や唇の動きを読み取って言葉を補うためだ。コロナウイルス感染防止のために、口元が透明になったマウスガードも販売されているので利用してみるとよい。

難聴になると、会話のしにくさによるQOLの低下だけではなく、人とのコミュニケーションが億劫になってしまい、塞ぎ込んだり閉じこもり、さらにはそれが原因でうつ病になったり認知症になったりすることもある。自覚がある場合には早めに医師の診察をうけて治療を行い、そして家族にも相談をして理解を得ることが大切だ。

 

髙谷 典秀 医師
  • 同友会グループ 代表 / 医療法人社団同友会 理事長 / 春日クリニック院長 / 順天堂大学循環器内科非常勤講師 / 学校法人 後藤学園 武蔵丘短期大学客員教授 / 日本人間ドック学会 理事 / 日本人間ドック健診協会 理事 / 日本循環器協会 理事 / 健康と経営を考える会 代表理事

【専門分野】 循環器内科・予防医学

【資格】 日本循環器学会認定循環器専門医 / 日本医師会認定産業医 / 人間ドック健診専門医 / 日本内科学会認定内科医 / 医学博士

【著書】 『健康経営、健康寿命延伸のための「健診」の上手な活用法』出版:株式会社法研(平成27年7月)【メディア出演】 幻冬舎発行「GOETHE」戦う身体!PART4 真の名医は医者に訊け(2018年6月号) / BSフジ「『柴咲コウ バケットリスト』in スリランカ 人生を豊かにする旅路」(平成28年1月) / NHK教育テレビ「きょうの健康」人間ドック賢明活用術(平成27年5月) / NHKラジオ「ラジオあさいちばん 健康ライフ」健康診断の最新事情(平成25年11月)

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