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マコのよもやま話

マコのよもやま話 | 和泉 雅子

2023年12月05日

連載17 二人の銀座秘話

相変わらず、レコードの勢いはとまらない。ついにレコーディングに作詞・作曲家の大先生方も加わり「いいねえ」を連発。私の音痴を、きっと先生方は楽しんでいるにちがいない。
そんなある日、コーちゃん(越路吹雪さん)から譜面が届いた。
コーちゃんが作詞作曲した曲だった。デレクターさんが同じだったので、私の天才的音痴を直すため、練習曲を書いてくれたのだ。譜面の裏にメッセージ「この曲は雅子ちゃんの練習のためのものだから、レコードにはしないでね」とのこと。コーちゃん、ありがとう。

ある時、コーちゃんからおたまじゃくしだらけの譜面が、又々、届いた。英語で『ギンザライト』と書いてある。作曲者を見ると、あの、エレキギターの、テケテケテケテケのベンチャーズだった。ベンチャーズは来日するたびに、車の中から銀座のネオンを見るのが大好きで、この曲が生まれた、と言う。ちょうどこの頃、コーちゃん『イカルスの星』という、ポップス系の歌が大ヒット、同じ東芝レコードのベンチャーズがコーちゃんのために作った曲だ。ところがコーちゃん「私の曲じゃないわ。雅子ちゃんにあげて」と、私に譜面がまわってきた。「無理むり、こんなおたまじゃくしだらけの曲は、無理」デレクターさん、ニッコリ笑って「裏を見て」。又々、譜面の裏にコーちゃんのメッセージが。
「雅子ちゃんは音痴。雅子ちゃんは歌が下手。でも、味は世界の歌手にない凄いものを持っている。だから、まったく味がない、楽器のように歌える男性とデュエットすると、この曲は、きっと大ヒットするよ」
コーちゃん、この一言で、この曲に挑戦する気になった。

作詞は永ちゃん(永六輔さん)にお願いした。私が子役の頃、前田武彦さんのアシスタントだった永ちゃんと仲良しになった。あの、やさしい永ちゃんに書いてもらった。さすが永ちゃん『ギンザライト』を『二人の銀座』という題名にした。
編曲は川口っちゃん(川口真さん)。私の曲の編曲をずっと引き受けてくれた、天才。編曲で、私の音痴をカバーしてくれていた。

さて、味がなくて、楽器のように歌える男性。迷わずケンちゃん(山内賢さん)にお願いした。この曲の前にケンちゃんと『ユーアンドミー』というレコードを出している。映画でもコンビが多い。若手俳優さん達と『ヤングアンドフレッシュ』という、エレキバンドも結成。ケンちゃんは音楽の天才なのだ。

問題は私である。テケテケテケテケをどう歌うか、と、茫然とおたまじゃくしを眺めた。なんとデレクターさん、お経作戦を編み出した。出だしの一小節「待ちあわせて」だけを一週間毎日4時間レッスン。こんな塩梅で、お経のように覚えた。このやり方が私にピッタリ。最後の「二人の銀座」に辿り着いた。音痴じゃないような気がしてきた。お経作戦、おそるべし。

いよいよレコーディングの日。スタジオの前に、私の家でケンちゃんと初音合せ。ところがケンちゃん「二人の銀座」で、違うメロデーを歌った。「ケンちゃんが違うメロデーを歌った」と泣き出してしまった。違うのではなく、賢ちゃんはハモったのである。泣いて声が枯れて、レコーディングは中止。そのかわり、銀座でジャケット撮影。泣いたおかげで、私の顔、珍しく愁いに満ちていた。もし、レコードを持っている人がいれば、ぜひ、ご確認を。

2回目のレコーディングだが、なぜかスタジオに入ろうとすると、足がつる。なんべん試しても、足がつる。残念ながら、2回目も中止になってしまった。3回目は、見事に風邪を引いた。どうにか4回目で、レコーディング成功。何回も何回も歌って、後に、良いところだけ一小節ずつ編集して、ついに『二人の銀座』は、完成した。

さて、コーちゃんの予言通り、大ヒット、するかしらん。じゃあ、またね。

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和泉雅子
  • 和泉 雅子
  • 女優 冒険家
  • 1947年7月東京銀座に生まれる。10歳で劇団若草に入団。1961年、14歳で日活に入社。多くの映画に出演。1963年、浦山監督『非行少女』で15歳の不良少女を力演し、演技力を認められた。この映画は同年第3回モスクワ映画祭金賞を受賞し、審査委員のジャン・ギャバンに絶賛された。以後青春スターとして活躍した。
    1970年代から活動の場をテレビと舞台に移し、多くのドラマに出演している。
    1983年テレビドキュメンタリーの取材で南極に行き、1984年からは毎年2回以上北極の旅を続けている。1985年、5名の隊員と共に北極点を目指したが、北緯88度40分で断念。1989年再度北極点を目指し成功した。
    余技として、絵画、写真、彫刻、刺繍、鼓(つづみ)、日本舞踊など多彩な趣味を持つ。
  • 主な著書:『私だけの北極点』1985年講談社、『笑ってよ北極点』1989年文藝春秋、『ハロー・オーロラ!』1994年文藝春秋。
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