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コラム

2022年04月08日

コロナウイルスときもの

(本稿は老友新聞本紙2021年1月号に掲載された当時のものです)

この原稿用紙にコロナウイルス、コロナ、コロナ、コロナ……と、コロナで埋めても良いくらい、ほとんどのメディアにコロナという言葉が埋められている。他に明るい話題は無いものかと思いつつ、やっぱり歴史的大惨事であることは間違いない。

ともあれこの原稿が出るころは、どんな状況になっているだろうか。まだ「感染者何名……」とやっているのか。
犠牲になっている方には申し訳ないが、暗黒の歴史の舞台の一頁に名を残すのだ。

そうかと思えば、国は「GoToトラベルを延長」と言っている。何故やめないのか。何故、自覚がないのか。自分は関係ないというのか。毎日毎日あちこちで、遅ればせながらの数字が出るのはうんざりだ。集団的規律が出来ない民族になっているのだ。

衣更(ころもがえ)など、やがて消えてゆくだろう。
日本には春夏秋冬という季節の移り変わりがあり、装いの中にも季節をとりこんで、色、形など、着こなしの中にその人の個性を出したのだ。
しかしこの季節も少しずつずれてきている。4月・5月、9月・10月でも、暑い日に袷は着ていられない。少しずつ人は季節のずれと寄り添いながら、それをとがめる人さえいなくなったのが昨今の衣更の実情だ。

きこなしも、伝統的な着こなしを壊そうという強い力が働いている。
令和3年、成人式はどうなるのか、今の若い女性は帯締め十本をアレンジして
「昔の桃山時代のようにして」
「前帯に結んで」
「半巾帯、だらりに結んで」
という。自由な表現だ。考えてみれば、ファッションなんだからそれで良いのだ。こちらは女性の要求にこたえられる技術を持つべきなのだ。

ある日、前帯に結んでほしい、という希望者があった。
父親は大慌てで
「あかんぞ。ふくら雀に結んでもらえ」
「いやや。遊女みたいに結びたいんや」
父と娘の間に挟まった私は、どちらにつくこともできず。
「お前、遊女て何する人かわかってんのか」
「何言うてんの。ファッションやんか」
彼女は着こなしの中に自分の夢を盛りたかったのだ。
自分で重ね衿、比翼、抱え帯などの小物を手仕事で作って来ていた。
出来上がった彼女の姿は、浮世絵の如く素敵だった。
お父さんの気持ちは複雑だったろう。
30年前と言えば、それは先を走っていただろうけれど、もともときものは学問で着るのではなく、うれしくて着るのだ。

コロナの勢いが弱まることがなければ、成人式も開催の仕方が考えられるだろう。会場も、式典も、同窓会も、形を変えるだろう。
そして、やがて式服は消滅へと変わっていくことだろう。伝統そのものの力が弱ければ、消える。

さて、現在のきものの力のアイデンティティーはどれほどの力を持っている事か?
いささか不安はよぎるが、コロナに負けずに、伝統の成人式が消えることがあってはならない。
書きながら、この恐ろしいコロナの行方に不安を感じる。
「省略は消滅に繋がる」
というキャッチは我ながら胸をつく言葉だった。そうだ。言葉も生き物だ。使わなければ消える。
早くコロナが消えてと祈りつつ、強く生きる道を選ぼう。
(本稿は老友新聞本紙2021年1月号に掲載された当時のものです)

 

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市田 ひろみ
  • 服飾評論家

重役秘書としてのOLをスタートに女優、美容師などを経て、現在は服飾評論家、エッセイスト、日本和装師会会長を務める。

書家としても活躍。講演会で日本中を駆けめぐるかたわら、世界の民族衣装を求めて膨大なコレクションを持ち、日本各地で展覧会を催す。

テレビCMの〝お茶のおばさん〟としても親しまれACC全日本CMフェスティバル賞を受賞。二〇〇一年厚生労働大臣より着付技術において「卓越技能者表彰」を授章。

二〇〇八年七月、G8洞爺湖サミット配偶者プログラムでは詩書と源氏物語を語り、十二単の着付を披露する。

現在、京都市観光協会副会長を務める。

テレビ朝日「京都迷宮案内」で女将役、NHK「おしゃれ工房」などテレビ出演多数。

著書多数。講演活動で活躍。海外文化交流も一〇六都市におよぶ。

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