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医療と健康

2022年03月25日

高齢者の排尿トラブル対策

厳しかった冬の寒さも峠を越え少しずつ暖かくなり、重たいコートを脱いで外出をしたくなる季節である。しかし外出の際、ついトイレのことを気にしてしまう方はいないだろうか。高齢になると排尿に関する様々なトラブルを抱えるようになり、トイレが近くて外出が億劫になったり、公衆トイレの場所が気になったりで、せっかくの外出を楽しめないという悩みを抱えている方も少なくないだろう。今月は高齢者に多い排尿トラブルの原因と対策をお伝えしよう。

失禁怖くて外出控えると
うつやフレイルに陥ることも

我々は1日に1・5リットルほどの尿を排泄する。膀胱に貯めておける尿の量は個人差や男女の差もあるが、およそ300ml程度と言われているので1日に5回程度トイレで排尿をすることになる。健康なうちは何も意識せずに行っている排尿だが、いざトラブルが起きてしまうと、毎日これだけの回数、不便な思いをしなければならなくなる。

しかし排尿に関するトラブルというものは家族や医師に相談しにくく、そのまま悩みを抱え込んでしまい、放置されてしまうことも多い。失禁が怖くてついつい外出を控えるようになると、閉じこもりになったり、鬱になってしまったり、非活動的になってロコモティブシンドロームやフレイルに陥ってしまうことも心配され、高齢者の健康維持にとっては非常に大きな問題である。

排尿の仕組み

まず、我々の身体の中でどのようにして尿が産生され、そして排尿をもよおすのか、その仕組みを説明する。

そもそも尿というものは、血液中の余分な水分や老廃物を取り除くために腎臓で作られるものである。腎臓は二つ対を成した臓器で、ここで作られた尿は尿管を通って膀胱に送られる。膀胱はご存じのとおり一時的に尿をためておく場所であり、個人差はあるがおよそ150mlほど貯まると脳へ信号が送られ、尿意を感じるようになる。
膀胱は交感神経と副交感神経の二つの自律神経によって制御されている。尿を貯めておく、尿を我慢するといった際には交感神経が優位となり、膀胱の筋肉を弛緩させて膨らみやすくし、尿を貯めやすくする。同時に尿を排泄する際の通り道となる尿道の筋肉を収縮させ、尿が漏れないようにするのだ。逆に尿を排泄するという際には副交感神経が優位になる。
すると膀胱の筋肉は緊張して収縮し、尿を外へ押し出そうとする。それと同時に尿道の筋肉は弛緩して広がり、尿を出やすくする。このように交感神経と副交感神経が状況によって優位性が入れ替わることで、排尿をコントロールしているのだ。

軽度の場合、薬の服用や
骨盤底筋を鍛える運動を

排尿トラブルは男女によってその原因が異なることがあるのでそれぞれ説明する。

■男性の場合
男性に多い排尿トラブルは前立腺肥大症によるもので、お腹に力を入れてもなかなか尿が出ない、出し切るのに時間がかかる、尿の出に勢いがない、排尿後もまだ尿が残っている感覚があるなどだ。前立腺は尿道の周りを囲んでいる臓器で、高齢になると肥大し、それが尿道を圧迫して狭くしてしまうのだ。
治療法としては、前立腺を小さくする薬や、前立腺の中にある平滑筋の緊張を和らげる薬を使用する。薬で症状が改善しない場合には手術を行なうこともある。

■女性の場合
女性に多い排尿トラブルは腹圧性尿失禁である。笑ったりくしゃみをしたり、あるいは重いものを持ち上げた時など、お腹に力が加わった際に少量の尿が漏れてしまう症状だ。原因は尿道や肛門周囲の骨盤底筋の筋力が落ちてしまうためで、加齢や妊娠や出産などをきっかけに弛みやすくなってしまう。
症状が軽度の場合は、この骨盤底筋を鍛えることで改善が望める。図に、骨盤底筋を鍛える運動の例を示したので実践してほしい。
また、肥満気味の人の場合は、お腹の脂肪の重みが骨盤底筋に負担をかけ、ゆるんでしまうこともある。骨盤底筋運動を毎日続けていただき、筋力の強化と共に肥満も解消すればより高い効果が期待できるだろう。

これらの運動を行っても改善しない、あるいは症状が強い方は、もちろん早めに医師に相談することが望ましい。自分一人で悩まずに、早めに専門医に相談することが重要である。

髙谷 典秀 医師
  • 同友会グループ 代表 / 医療法人社団同友会 理事長 / 春日クリニック院長 / 順天堂大学循環器内科非常勤講師 / 学校法人 後藤学園 武蔵丘短期大学客員教授 / 日本人間ドック学会 理事 / 日本人間ドック健診協会 理事 / 日本循環器協会 理事 / 健康と経営を考える会 代表理事

【専門分野】 循環器内科・予防医学

【資格】 日本循環器学会認定循環器専門医 / 日本医師会認定産業医 / 人間ドック健診専門医 / 日本内科学会認定内科医 / 医学博士

【著書】 『健康経営、健康寿命延伸のための「健診」の上手な活用法』出版:株式会社法研(平成27年7月)【メディア出演】 幻冬舎発行「GOETHE」戦う身体!PART4 真の名医は医者に訊け(2018年6月号) / BSフジ「『柴咲コウ バケットリスト』in スリランカ 人生を豊かにする旅路」(平成28年1月) / NHK教育テレビ「きょうの健康」人間ドック賢明活用術(平成27年5月) / NHKラジオ「ラジオあさいちばん 健康ライフ」健康診断の最新事情(平成25年11月)

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