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コラム

2022年07月29日

老醜

私は目下、圧迫骨折の後のリハビリで自宅にこもっている。忙しくとびまわっていた私にとって、誠に退屈な日々なのです。

時々、スタッフや友人から電話がかかる。
「元気になったらごはん食べに行こう!!」
「たまには外へ出なあかんで!」
「うん、また。元気になったら電話するわ」

昨日も那須から電話があった。
きもの作家のS氏からだ。先生の個展にゲスト出演してほしいというものだったが、コロナのせいでキャンセルになり、展示会そのものがどうなったか、気にしていたところだった。
「お陰で、何とか来場者もありそうです」
スカーフやショールなどが売れているという。

民芸の芹沢銈介氏の所で修業したS氏の紅型風の作品は私も好きで、数枚持っているが、伝統的な染織の物語を語る人も少なくなった。
S氏は
「今、ひろみ先生と行った善光寺の写真、見てるんだけど、先生、きれいなんだよ!とてもきれいなんだ!」
私はうれしくなって
「ありがとう。もう10年くらい前になりますねえ。今、出逢ったらがっかりしますよ」
「ひろみ先生は若い」
「ひろみ先生はきれい」
と言ってもらっていたのは、この間のように思うけど……髪は真っ白になるし、肌は荒れてクリームはのびなくなるし、めがねはいるし、しわが出来るし、目尻はさがるし。まさに老醜そのものだ。
老醜とは残酷な言葉だ。化粧をしていればいくらか化けることも出来るだろうに。

電話は、巣ごもりの私に、いろんな情報を教えてくれるが、誰も受話器の前では同じテーマだ。
なんて、私のまわりの人を十把一絡げに考えていたが、びっくりするような例外がいた。
Yさんだ。
Yさんは、私のもとで30年を超える日々、きものアドバイザーをしていたが、70歳を境に業界から去った。
Yさんは超元気で、相変わらずの早口のおしゃべりで、もっぱらダンス教室の話題に終始した。
昔は、旅行好きの彼女は、単身ツアーに参加して、旅を楽しみ、旅の話題ばかりだったが、今は社交ダンス。
スマホに入れた、自分のダンスのステージの写真も
「これは会で踊ったんや」

ダンスは姿勢が良くなる。やわらかそうな身体は、自在に動いている。もう7年になるそうだ。
「パートナーはどうしているの?」
「それが、イケメンのアルバイトの学生が結構いますねん」
スタジオにアルバイトの学生が4人いて、顔もええ。プロポーションもええ。ダンスもうまい。おばさん達がとりあいだそうだ。
「ドレスは自前か」
「服に合わさんならんし、太ったらあかんし。ストレッチでスタイル保っています。今はワルツ、タンゴ、ルンバ、どれでもOKです。友人もたくさん出来ました。1週のうち4日ダンス行って、お茶して、おしゃべりして、結構楽しんでます」
「ところで、あんたいくつになったん?」
「8月8日で80歳です。靴はヒールですから、8センチのヒールはいてレッスンしてます」
私は正直、60代後半くらいかと思っていたので、びっくり仰天。
手帳を覗いたら、びっしりスケジュールが書いてあった。

老醜という言葉は、彼女の辞書にはない。
(本稿は老友新聞本紙2021年6月号に掲載された当時のものです)

 

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市田 ひろみ
  • 服飾評論家

重役秘書としてのOLをスタートに女優、美容師などを経て、現在は服飾評論家、エッセイスト、日本和装師会会長を務める。

書家としても活躍。講演会で日本中を駆けめぐるかたわら、世界の民族衣装を求めて膨大なコレクションを持ち、日本各地で展覧会を催す。

テレビCMの〝お茶のおばさん〟としても親しまれACC全日本CMフェスティバル賞を受賞。二〇〇一年厚生労働大臣より着付技術において「卓越技能者表彰」を授章。

二〇〇八年七月、G8洞爺湖サミット配偶者プログラムでは詩書と源氏物語を語り、十二単の着付を披露する。

現在、京都市観光協会副会長を務める。

テレビ朝日「京都迷宮案内」で女将役、NHK「おしゃれ工房」などテレビ出演多数。

著書多数。講演活動で活躍。海外文化交流も一〇六都市におよぶ。

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